「おかあさんは?」ときくと
「あなたのお家に行きたい」と
女の子は鼻水をなめながら大人っぽい口調で言った。
私は「あなた」と言われたことに一瞬戸惑った。
話をよくきいてみると、自転車で一人で
遊びにきたようだった。
女の子の自転車には名前が書かれていた。
補助輪のついた自転車を押しながら
女の子の家を探し回った。
女の子は自分の帰る道を忘れてしまったのか、
帰って叱られるのが恐いのか、
どこからきたのか、はっきりと教えてくれなかった。
歩いていて出会った人にこの子を知らないか尋ねた。
「わからない」と言って女の子に飴を与えてくれた。
別の人は缶ジュースを買ってくれた。
女の子はちやほやされてご機嫌だった。
「お家はどこ?」とたずねると、「あっち」というばかり。
飴を口の中に入れてあげた。
「あそこがお家」
女の子がぼそっといった。
女の子のおかあさんは娘の濡れた姿や知らない人に
連れられてきたことなどに対してオドロかなかった。
色々と説明をしたかったけれど、面倒になった。
とりあえず、女の子は無事に家に帰れた。
女の子のおかあさんから濡れたジャケットを返された。
それを手に持って、来た道を戻った。