ある日のこと1
『浅瀬』


5月の連休の暖かな日のことだった。
小さな女の子が浅瀬で遊んでいた。
足が濡れていた。
そのうち、スカートが濡れ、パンツが濡れた。
女の子は胸まである川の中を
アップアップしながら歩いていた。

どうしたんだろう、助けなければ・・
女の子を引っ張り上げた時、
身体が冷えて震えていた。
私が着ていたジャケットを羽織らせた。
彼女の母は小さな橋を渡って
駆けてくるだろうと思ったのに
見当たらなかった。


「おかあさんは?」ときくと

「あなたのお家に行きたい」と

女の子は鼻水をなめながら大人っぽい口調で言った。
私は「あなた」と言われたことに一瞬戸惑った。

話をよくきいてみると、自転車で一人で
遊びにきたようだった。
女の子の自転車には名前が書かれていた。
補助輪のついた自転車を押しながら
女の子の家を探し回った。

女の子は自分の帰る道を忘れてしまったのか、
帰って叱られるのが恐いのか、
どこからきたのか、はっきりと教えてくれなかった。

歩いていて出会った人にこの子を知らないか尋ねた。
「わからない」と言って女の子に飴を与えてくれた。
別の人は缶ジュースを買ってくれた。
女の子はちやほやされてご機嫌だった。
「お家はどこ?」とたずねると、「あっち」というばかり。


『水面に映る夕焼け色』

飴を口の中に入れてあげた。
「あそこがお家」
女の子がぼそっといった。

女の子のおかあさんは娘の濡れた姿や知らない人に
連れられてきたことなどに対してオドロかなかった。

色々と説明をしたかったけれど、面倒になった。
とりあえず、女の子は無事に家に帰れた。

女の子のおかあさんから濡れたジャケットを返された。
それを手に持って、来た道を戻った。





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